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2012-12-03

医療・介護における国の責任

・国民皆保険の堅持
 国民皆保険については政府が責任をもって堅持すべきです。国民皆保険が導入できていない米国,発展途上国と比較すれば,日本の医療制度は大変優れていることが指摘されています。特に米国は日本と比べると,米国は一人当たり医療費が3倍であるにも関わらず,医療へのアクセスは十分に確保できていません。国民皆保険のメリットは低所得者,社会的弱者も費用を気にせず医療にアクセスできることであり,受ける医療サービスも貧富に関係なく公平です。また,医療制度,診療報酬制度,医療費総額のコントロールが容易となります。
・医療・介護財源の確保
 医療費,介護費の伸びが予想される中,医療費及び介護費の財源確保は重要です。現在,医療費は主に保険料5割,公費3割,自己負担2割となっています。社会保険改革の際に論じたように,基本的には公費の部分を保険料で賄えるようにするべきです。そのためには,保険の一元化と所得比例化が欠かせないと論じました。さらには,逆進性への対策として所得税改革,具体的には保険料からも控除可能な税額控除が必要になると論じました。さらに,地域集権においてはそれぞれに地域の自主財源を確保するとともに,やはり財政力の弱い地域に対する交付税による財政調整が必要であると論じました。保険だけが医療・介護の費用ではありません。交付税を通じて,国が医療・介護政策の財源を保証する必要があります。
・医療従事者,介護従事者の養成,確保
 医師,看護師等の医療従事者の養成については国の責任で行います。現在も医師,看護師,薬剤師等の医療従事者の養成及び免許は国が管理しています。医療従事者及び介護従事者の絶対的な数の管理は国が将来を見越して実施すべきです。
・医療提供体制のための法整備
 医療介護基本法は国の役割のラストへ。医療法,医師法を改正した上で,医療・介護のあるべき姿を示し,医療再生・介護再生の為の法的根拠とするため,医療,介護関連の基本法を制定するべきです。制度,権限,財源を明記し,国と道州,自治体の役割を明確化し,PDCAサイクルを明記したルールを明確化します。医療介護基本法は国の役割のラストへ。
併せて国民の医療と介護を受けることのできる権利とそれに伴う義務,医療人の義務と医療の不確実性を考慮した刑事上の免責,医療介護制度作りへの地域住民の参画を明記し,より良い医療,介護制度の整備のために,関係者が一丸となって協力できる体制を目指します。
・地域偏在,診療科偏在への取り組み
 医師の地域偏在,診療科偏在が問題となっていますが,これについては道州間の偏在については国が,道州内の偏在については道州が責任を持って解決すべきです。医師の派遣については,医師,住民からなる協議会(Advanced -IHN(Advanced integrated health care network,新 統合型医療健康ネットワーク)後述)が責任をもって各医師のキャリアパスを考えた上で派遣することを提案します。
その際,協議会には医学部が積極的に関わることが重要です。旧帝国大学が奇しくも道州ブロック単位と一致しているのは,明治大正昭和初期においては,帝国大学にその地方における医療提供体制の責任主体となることを期待したことの表れでもあります。全国80医学部が,それぞれの道州において,地域医療の担い手の供給源として責任を担うことを期待します。
 なお,医師の地域偏在,診療科偏在については,第3者機関又は保険者が地域ごとに医師数を定めた上で許可認定制とし,医師過剰地域では医師の新規参入を制限してはどうか,という提案もあります。医師の強制配置については,一部の医師から日本国憲法の職業選択の自由に違反するとの意見が聞かれます。一方で,公共の福祉の方が個人の権利よりも優先するとの意見もあります。
とはいえ,強制的に配置された医師はモチベーションが下げることも考えられ,結果的に地域住民の健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。最も重要なのは医師本人が納得した上で赴任することです。医師本人の希望に反した配置をすれば,医師はモチベーションが維持できず,質,量ともに不十分な医療となります。医師本人が納得できるキャリアパス,上級医師へのコンサル制度の充実,十分な給与を提示し,自主的に現地に赴くことが重要です。
・国の役割~地方で決めることの手助け~
 国は地方のサポートを行います。地域医療計画,介護支援計画は道州単位で策定することとなりますが,国は計画策定に当たっての基準を示します。また,道州は独自の保険制度の展開も可能です。一例としては,診療報酬,介護報酬の設定を独自に行うことを可能とします。とはいえ,国は診療報酬,介護報酬の標準を道州に示し,その上で各道州が一部改変や追加を行い,独自の制度を展開することを想定しています。
地域医療計画,介護支援計画,診療報酬などの基準策定作業は膨大であり,道州の策定負担を減らすためにも,基本部分は国で作業を行い,道州の手助けをします。ただし,これらはあくまで基準であり,道州は自らの責任で改変が可能となります。なお,診療報酬改定のタイミングですが,現在,2年に一度の改定となっていますが,介護保険に合わせて3年に一度の改定とすることを提案します。同様,地域医療計画は3年おきとし,改定と計画の見直し時期をそろえることが望ましいと考えます。
○地方で決めること~地域集権~
・協議会(Advanced -IHN)の設置
 地域における医療・介護政策立案には,医療・介護提供側代表,保険者代表,専門家,住民代表が参画します。地域集権は目的ではなく,より良い医療・介護政策を展開するための手段です。
そのため,医療・介護提供は,行政,保険者,医療機関,介護施設,住民代表からなる協議会(Advanced -IHN)が責任を持って行うこととします。協議会における医療・介護提供体制整備に当たっては,住民代表の役割が重要です。住民が受けたい医療・介護サービスを,自らが負担可能な費用を横目で見ながら決めることとなります。地域レベルであればこそ,住民は生活に落とし込んだ具体的なイメージを持つことが可能となることから,意思決定への参画が容易となります。住民に対して選択肢を示すためには,専門家の役割は重要です。国が負担する公費以外の保険料の設定及び自己負担割合の設定は道州レベルで決めることになります。
・提供する医療・介護レベルの決定
 医療・介護には正解がありません。人間の死は避けられないものですが,様々な治療を駆使すれば最後まで抗うことはでき,その治療,療養に際限はありません。最後まで積極的な治療を希望する患者もいると思いますが,積極的な治療にはとてつもない苦痛を伴います。看取りを多く経験する医療関係者は,自分自身が避けることのできない死に直面することが分かった場合,苦痛を取り除いた緩和ケアを希望する傾向にあると思います。
どのような医療,介護を提供するかは,地方住民の意見を聞きながら,道州に設置された協議会の責任で決めるべきであると考えます。
・道州ごとに地域性が花開く
 道州の住民の考えにより,医療,介護の提供体制に道州間の地域差が生まれることになります。それぞれの道州は創意工夫を競うこととなります。うまくいっても,うまくいかなくてもその道州の責任となり,住民参画が民主的に行われていれば,最低限のレベルさえ国が保証すれば,その地域格差は許容されます。多様性を認めることで,創意工夫が生まれ,他の道州が成功した道州の取り組みを参考にすることで制度の改善に結び付くと考えます。

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