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2012-11-25

新しい産業政策へ-雇用とイノベーションの経済-

以上の話は,人口減少社会の経済発展にとって非常に重要な話ではありますが,いわば守りの経済という側面が否めません。労働力率を高める必要性は何度強調しても強調し足りないくらいですが,対人社会サービスだけでこの問題を解決することができるのかといえば,そうではありません。国際的な市場に打って出て,競争に打ち勝ついわば攻めの戦略が必要となってきます。
日本においては,資本コストは安いものの労働コストは高いわけですから,為替の傾向が円高基調であることを考えても,安売り戦略で世界に通用するわけがありません。先進国はみんなそうです。そこで重要になってくるのが,他にはない価値を新しく創造するという高付加価値戦略です。日本でしか作れないものをどんどんと生み出す,イノベーションの経済にしなければ,人口減少社会を乗り切るには少しきついというわけです。
とはいっても,これまでのような企業さえ儲ければいいという話ではありませんし,経済が成長さえすればいいという話でもありません。経済成長論というと企業が儲ける話中心で,いかに国内で雇用を生むのか,そして国民にその利益が還元されるのかという話が欠如しているように思います。いや,儲ける企業はあっていい。しかし,その利潤をどんどん海外の投資に回すのであれば,それはもはやグローバル企業なわけです。
優れた企業は,どんどんとグローバル企業になっていってほしい。日本発のグローバル企業が増えることは好ましいはずです。しかし,そのことと,人口減少社会での日本の経済発展とは直接はリンクしてこないということに注意しなければなりません。世界経済が発展すれば,日本も多少は恩恵にあずかれる,という意味において大切なのであって,直接経済が好転する原動力になるということはあり得ません。企業が利潤を上げることは必要だが,雇用に波及しないなら意味がないのです。
優れた技術を持った企業は,どんどんと海外投資に投資をするべきです。しかし,それはある意味では需要の奪い合いをしているにすぎません。日本国内で生産して,海外に売るならば,ある意味では海外の需要を奪っていることになります。海外の需要をてこに,国内の雇用を創出しているといってもいいでしょう。そして,国内市場と海外市場との大きさを比べるならば,このような需要を奪うという戦略はいつまでもその重要さを失うことはありません。
ところが,安価に製造できる海外に生産拠点を置いて国内でそれを販売するならば,それは日本の需要を海外に奪われていることになります。製造は海外で,販売は国内で。これが,先ほど述べたぺティ・クラークの法則の裏側で起きていることです。さらには,海外で生産して海外で売るというパターンも定着しています。このような需要の奪い合いは,効率的な経済を構築するためにはある程度は欠かせません。とはいえ,それだけではいわゆる産業の空洞化による経済的な衰退の原因になってしまいます。
2000年代にはデフレ経済ではありましたが,生産量だけをみれば緩やかに経済成長をしてきました。名目GDPのピークは1997年で,そこから日本は一貫して経済的衰退の局面にあることは間違いありません。しかし,その裏側では実質GDPは伸びていて,経済は成長しているように見えます。とはいえ,経済が好転しているような実感はあまりないわけです。
これをどう見るべきか,ということになります。これが,雇用なき経済成長の悲劇なのだと思います。労働力人口が減る中で,本来であれば給与は上昇基調になるはずです。しかし,雇用の流動化の進展によって,結局は給与水準はどんどん下がってきている。失業率は諸外国と比べてそれほど高くないけれども,この低さを単純に喜ぶわけにはいきません。日本経済が力強さを失いつつあることの,現れでもあるからです。人間に例えるならば,大けがをしているわけでも,病気であるわけでもないけれど,栄養失調で死にかけているような状況と同じです。
だからこそ,厳しい国際競争の中で打ち勝つ戦略が必要となってきます。雇用を生み,給与を上げるための戦略です。単に利潤を上げるための戦略はこれまでやってきたし,それなりに成功を収めてきたわけですが,それでは日本経済は沈み続けてしまうからです。そこでのキーワードは,産学連携,高付加価値,地域集権の多様化戦略(その中には地産地消と観光を含む),サービス産業化戦略です。
詳しくは後述しますが,日本には国際的な競争力の高い分野はあるし,なによりもこれからもっとそのような分野を創出できるのかどうかにかかっているわけです。よく,哀愁たっぷりに日本の技術力はまだ高いという話がされます。たとえば,プラズマテレビ,液晶テレビ,そして有機ELのテレビ。これらはすべて日本発祥です。しかし,世界の市場では韓国勢をはじめとした企業に奪われてしまった。
だから,取り返そうというのは衰退への道です。次の新しいトレンドを生み出すことができる,そういう経済に持っていかなければなりません。技術を確立するのと,確立された技術でリーズナブルで魅力的な商品を生み出すのは別の戦略です。日本のマーケティングと商品開発の能力の低さは何とかするべきでしょうが,そもそも向いていないことに国の命運を託すのは間違っています。高度に知識社会化した日本から,イノベーションが繰り返される日本から,次の技術的ムーブメントを発信する力強さが必要なのです。

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