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2012-11-23

時間も金もない。欲しいものもない。―低消費社会―

 ところで,なぜこんなにも消費ができない経済になってしまったのでしょうか。どうも,消費ができないということを中心に,日本経済の癌が張り巡らされているのは間違いなさそうです。だからといって,なにもアメリカのように借金をしてまで消費をすることはありません。それは,土地の値上がりに依存したバブル経済でしかないからです。ゆがんだ形で消費を喚起しても,サブプライム危機に象徴されるようにそれ以上の手痛いしっぺ返しを食らうことになるからです。
 とはいっても,人々の消費マインドが冷え切ったままでは経済発展をして成熟した人口社会を構築することは夢のまた夢です。年金や医療や介護などのセーフティーネットに対する信頼が失われてしまっていることもあるでしょう。企業も労働者に保護を与えなくなっている現状では,安心して消費を行うよりも将来に対して蓄えをしたくなるものかもしれません。
 ここで,貯蓄とセーフティーネットに関する伝統的な経済学の見解を説明しておきましょう。一つは,貯蓄は経済成長の源泉であるという考え方です。確かに,終戦直後の日本では,貯蓄が極端に不足しており,貯蓄不足が経済成長の足かせになっていた側面がありました。戦後復興の旺盛な投資意欲に見合うだけの貯蓄が国内に存在しなかったために,投資したくともできないという状況があったのです。
 しかも,外国から原材料を購入するための外貨も不足していたために,経済成長が抑制されてしまったのでした。伝統的な経済成長論でも,人口成長と貯蓄によって経済成長は達成されると考えられています。経済学では貯蓄のことを資本蓄積といいますが,資本蓄積こそが経済成長の主要因であるという考え方が主流でありました。一人当たりの資本蓄積が増えれば自然と最適な経済成長が実現すると考えられていたのでした。
 ところが,現代経済では人口と貯蓄だけでは経済成長は説明できなくなってきています。その理由の一つが,経済のグローバル化です。日本ではいくら資本蓄積が進んでも,国内に投資されることは少なく,海外で投資されることになります。これは前述した為替変動に伴う現地生産の進展を金融面からの説明したものです。少し考えれば当たり前のことで,需要が減少している日本と経済成長の著しい海外では投資需要が根本的に異なります。
 為替リスクを考えなければ,日本で投資するより海外で投資したほうがもうかるのは当たり前です。そして,その儲けは日本に戻ってくることはありません。日本を飛び出した資本はもはや日本の資本ではなくグローバル資本として機能するからなのです。円高傾向が続く状態では,海外のもうけを為替損をして日本に戻すよりも,そのまま海外に投資し続けたほうが望ましいからなのです。このことは,世界経済の成長に寄与するものの,日本経済の成長とは無関係です。日本でなされている貯蓄は,もはや日本の経済成長に寄与するのではなく世界の経済成長に寄与するグローバル資本の一員とならざるを得ないのです。
 貯蓄すればするほど国内投資が伸びて,輸出が増えるという好循環はもはや存在しません。むしろ,貯蓄をするということは消費を減少させ,日本経済の不均衡を悪化させることに寄与してしまいます。先にも述べましたが,デフレスパイラルが起きているとといわれて久しくなってしまいました。デフレとはモノが安くなり,通貨の価値が上昇する現象です。
 モノが安くなることは,われわれ消費者からしてみれば大歓迎ではあります。しかし,企業にとってはたまりません。デフレの原因は直接的には生産過剰だから生産を縮小し,リストラクションという名で人員を整理し,給与水準を引き下げる。このことがさらなる需要の減少を生む。これがデフレスパイラルの局面で起きている減少ですが,貯蓄の過剰が金利を引き下げたとしても,それは同時に消費の過少を意味しているので国内の投資機会はさらに減少しています。
 金利をいくら下げても,貨幣供給をいくら増やしてもデフレが収まる気配はありません。むしろ国外の高い投資需要に資金は吸い上げられていくのが現状です。伝統的な経済成長論が想定しなかった事態が進行しているように思えます。現在の日本の抱えている問題は国内に有望な投資先がないということです。それは,需要の伸びている分野がない,ということに他ならないのです。いくら海外に投資を向けたところで,円高によってその利益は相殺されるのは自由経済の常であるし,その利潤自体も国内に還元されず,給与が伸びないわけだから,国内での需要は増えず,投資も増えないということです。
 私は金融の専門家ではありませんが,金融政策は重要だと思います。デフレは克服せねばなりません。そのために,あらゆる金融政策の手法は検討されるべきでしょう。それだけでなく私の立場からすれば,国内の投資を増やす戦略を考えるならば需要創出の戦略が必要なのだと考えています。だから,私は医療・介護・教育の需要を掘り起こすことが,これからの日本に必要だと主張するわけです。

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