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2012-11-25

愛すべき日本の原風景―都市と農村の役割分担―

 日本経済が衰退してしまったことの原因の中には,非常に情緒的な面もあるように思います。具体的には,生活の中から自然がなくなってしまったということです。子供は自然の中で育つのが望ましい。人間として必要な情緒や,思考や対話能力,実行力を養うためには,自然環境は最良かつ唯一の教師であるように思います。自然を楽しむことは,単なるサービス消費というだけではなく,グローバルな人材や,優れたアイディア,イノベーションの根底にある人間性を育成するために欠かせないのです。
 だからこそ,自然保全こそが経済的にも次世代戦略となります。河をコンクリートで覆うのではなく,出来るだけ自然のままで反乱を防ぐ。むしろ,コンクリートで覆っていた河を自然に戻す。自然を保全して,自然を回復することが新しい公共事業の形態にもなりうるわけです。あちこちに,日本的な自然を回復することが,人口減少社会においては非常に重要な国土計画となり得ます。
 もちろん,防災の面から国土を強靭化していくことは大切です。それに加えて,自然を大切にする公共事業,自然を回復する公共事業が実は世界の流れになっているのではないかと思います。しかも,里山からたきぎをとっていたように,自然はエネルギー源でもあります。卒原発のロードマップと,自然の回復,そして自然の中で人間の再生産されること,そこでの日本的家族の復活。この組み合わせこそが,いまの日本にとって必要なビジョンではないでしょうか。
 とはいえ,みんなで農村に住もうということを主張しているのではありません。農村から都市へ,都市から農村へという人口の流れを取り戻そうと主張しているのです。かつて,農村から都市部への労働力の大移動がありました。そのことは,都市の発展の源泉になりましたが,現在の農村の衰退にもつながってしまいました。多くの人間が農村で生まれて,自然に囲まれて育ち,都市に行って働くというサイクルが壊れてしまったのです。
 そうすると,日本の原風景が失われていくだけではなく,日本人として共有しているものがどんどんなくなってしまった。その結果のひとつが,人口減少社会の到来なのです。何度も言いますが,人口減少を止められると考えているわけではありません。そうはいっても,それは,日本の抱える病のひとつの表れでもあるのです。自然の中で人間が再生産され,エコロジー循環の中で成長し,都市に行って最先端の産業に従事し,最後は地元に戻って余生を過ごす。このような,人生のサイクルを取り戻さなければ,経済が抱えている病を治療しえないと思います。
 しかも,このことは経済の多様化戦略の基礎となり得ます。南北に長く,日本海側と太平洋側では大きく気候や風土が異なります。異なる風土においては異なる文化が醸成されます。知識社会におけるイノベーティブな人材を育成するためには,多様な人材による切磋琢磨が必要です。多様な地域で育まれた多様な能力や感性が必要となってきます。どうも,日本ではその基礎が失われつつあるように見えます。だからこそ,高度な産業の育成を考えるのであれば,どうしても都市と農村の役割分担について再考する必要があると考えているのです。

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