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ゲノム医療 がん治療や病気予防にメリット 一方懸念点も
2023-08-29

ゲノム医療 がん治療や病気予防にメリット 一方懸念点も

患者さん一人ひとりの個人の遺伝情報を、病気の治療や予防につなげる「ゲノム医療」が今、急激に進化しています。
がん治療など、医学的側面で期待される医療技術ですが、差別や不当な不利益を受ける懸念も指摘されています。
ここでは、「ゲノム医療」とは何か、そのメリット・デメリット、課題への国の対応状況などを、わかりやすく・簡単に解説していきます!

ゲノムとは?DNAとの違い

まずは、「ゲノム」の意味について説明します。

よく混合されやすい言葉として、「DNA」がありますが、
DNA(デオキシリボ核酸)は、遺伝子の本体となり、「A,T,G,C」の4つの塩基から成る螺旋状からなる化学物質のことです。

これに対して、「ゲノム」とはその「DNAの文字列にあらわされた遺伝情報すべて」を指す言葉です。

このゲノムが解読できるようになると、例えば「顔の形のどの部分がどのように親から子へ遺伝するか」や「この子はどういう病気にどの程度なりやすいか」といった生物の遺伝情報が詳細にわかります。

ちなみに、私たち「ヒトゲノム」の解読については、実は2003年に既に完了しており、今年2023年は解読完了から20周年の年にあたります。

DNAのイメージ画像

「ゲノム医療」の意味

ゲノム医療とは、個人のゲノム情報を利用して、より効果的・効率的に、病気の診断や治療に役立てていこうという医療のことです。

ゲノム医療では、個人のゲノム情報を解読し、その情報を利用して疾患の予防や診断、治療を行います。

 

「ゲノム医療」のメリット

ゲノム医療のメリットとして、まず、ゲノム解読によって個人の体に潜む病気のリスクや傾向を知ることができます

病気のリスクや傾向について予め知ることができれば、それに基づいて、予防策や適切な治療方法を提案することができますよね。

また、ゲノム情報は病気の早期発見にも役立ちます

異常な遺伝子の変化や変異を見つけることで、病気を早期に発見し、効果的な治療を行うことができます。

個人のゲノム情報を基に、治療法や薬物を選択し、副作用を最小限に抑え、治療効果を最大化を目指すゲノム医療とは、一人ひとりに合わせた最適な医療を提供できる可能性のある、医療の概念をアップデートする新しい医療法なのです。
笑顔の子供たちの画像

がんゲノム医療 4人に1人ががんで亡くなる時代の救世主?

さて、ここまでゲノム医療の概要について紹介してきましたが、より身近で皆さんもよくご存知の病気に対しても、このゲノム医療が既に実践されています。それは、「がんゲノム医療」です。

そもそも、「がん」とは遺伝子の変化が原因で起こる病気です。
遺伝子の突然変異によって、正常な細胞ががん細胞に変わってしまい、体のあらゆる組織や臓器を侵食していく、これががんの正体です。

だから、その根本の一人一人の遺伝子の変化や生まれ持った遺伝子の違いを解析・把握することで、がんの性質を明らかにしたり、体質や病状に合わせた治療をしたりする「がんゲノム医療」が既に行われています。

全国にがんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院が指定されており、全国どこでもがんゲノム医療が受けられるようになることを目指して、体制づくりが進められています

日本人の4人に1人ががんで亡くなる時代と言われています。
だからこそ、がんゲノム治療を通じて、多くの人を助けられる世の中になっていけばいいですね。

ゲノム医療のデメリットや課題と国の対応 ー「ゲノム医療法」成立ー

「法律」の画像

ゲノム医療は期待できる点の多い医療技術ですが、一方で、ゲノムは「究極の個人情報」とも言えます。

その解析によって、病気のリスクに加え、太りやすさなど、容姿の傾向についても明らかになってしまい、それが周りの人に知られると、差別にも繋がりかねない懸念があります。

また、こうした差別の問題に加え、生物としてのヒトの設計図の情報全てを扱うため、生命倫理上の問題も関わってきますね。

このような課題に対応すべく、国会では新たな法律が成立しました。

「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案」、いわゆる、「ゲノム医療法」です。

【参照:衆議院ホームページ:「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案要綱」】

この法律には「不当な差別の排除」「生命倫理への適切な配慮」が文言として組み込まれております。

ゲノム医療を推進していく上でリスクになりうる、生命倫理への適切な配慮、ゲノム情報の適切な取り扱い及び差別等への適切な対応を確保するために、国が講じるべき必要な施策まで条文に盛り込まれています。

このように、新しい技術に対応する形で国の法整備が追いつく必要があります。

私も医者として、ゲノム医療はまさに夢のような医療技術だと感じますし、多くの人を救う上で、大変期待できると思っています。

だからこそ、その新技術で新たに傷つく人が生まれないように、今回成立した法案の実効性を高めていく議論を続けていかなければなりませんね。

関連リンク

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