活動報告・ブログACTIVITY / BLOG

2012-12-03

東海地方及び愛知県における医療提供体制について

・医療・介護における地域主権の実現
 政策は時に理念的になりがちです。理想像を追求し,論理立てて政策を立案することは時には有効ですが,現場とかい離をしてしまっては問題です。そこで,私が生まれ育った愛知県を例に具体的な政策について論じてみたいと思います。先ほども触れたとおり,地方主権の考えのもと,医療・介護のあり方を模索することになります。
○中部における道州単位
 前の章でも触れましたが,ここでは適切な医療・介護提供体制を整備するために,医療・介護分野に道州制を導入します。道州単位については,これまで道州制の議論の中で様々な意見があります。ここでは,地方制度調査会で示された区域例のうち,11道州,13道州の案を採用すると,中部は東海州となり,愛知県,岐阜県,三重県,静岡県から構成され,人口約1500万人,経済規模は約70兆円(日本のGDPの約13%)が属することとなります。
○三河愛知における地域単位
愛知県は二次医療圏が11に分かれています。三河は二次医療圏で言うと西三河北部(豊田),西三河南部(岡崎),東三河北部(新城),東三河南部(豊橋)に分かれています。二次医療圏の設定に当たっては,愛知県が人口規模と面積を元に分割したものと思われますが,医療,介護の提供体制に適切なサイズを考えるのであれば,政令指定都市レベルの人口100~200万人単位が適切と思われます。
三河のすべての医療圏を一つにすると人口230万人となりますし,西三河と東三河でまとめると150万人と80万人となり,ちょうど良いサイズになると思われます。これらの医療圏を広域連合とし,中部地域の道州単位の元,責任を持って医療・介護提供体制を構築することになります。
○医療・介護に関する情報の透明化
 協議会で医療・介護の議論の進めるためには,医療に関するデータの見える化が重要です。行政機関がデータを収集し,情報として加工し,地域住民に公表を行うと共に政策立案に役立てます。個人情報保護との兼ね合いが常に問題になりますが,過度に個人情報の保護に過敏になるあまり,政策づくりの妨げになるのは本末転倒です。個人情報保護法にも書かれていますが,政治目的,行政目的,公衆衛生の発展に寄与するもの,命に関わることについては個人情報保護法の適応外と明記されています。
その精神に則り,研究目的ですら閲覧が困難な統計情報をはじめとする健康医療関連情報の公開を徹底し,透明で正確なデータに基づく医療政策の立案と検証のプロセスを確立したいと考えています。医療機関側もこれまで,自らの医療機関のデータをためらう傾向がありましたが,国民から集めた公費と保険料を元に経営を行っている以上,今まで以上に情報を協議会に提供するように働きがけます。
 データを集めるだけではありません。データを集めて集計し,きちんと分析しなければいけません。医療・介護情報センターを道州,二次医療圏ごとに整備し,分析可能な人材を置きます。集めたデータのうち,守秘義務をかけて研究者に提供し,医療・介護の提供体制の強化,質の向上,効率化の提案をしてもらいます。住民に対しても分かりやすく集計を行い,提供します。特にこれからの医療・介護を支える若い方々に医療・介護の公益性を理解してもらうために,学校教育の場で活用してもらうようにします。私の考えでは,適切なデータがあれば,取るべき選択肢が浮かび上がり,協議会の場で住民が主体となって政策決定ができるようになると思います。
・東海地方及び三河の地における医療の基本方針~救急医療の充実~
 まず,この地域の住民の生命を守ることを基本方針とします。この地域の住民は,生命の危機に瀕した場合は,いつ何時も,地域内のどこにいようが,最大級の救急医療サービスを受けることができるということです。みなさんには当たり前で今更の様に感じられるかもしれません。実は医療の現場の経験では,この当たり前はほとんどの場合,当たり前ですが,例外があり,もう少しシステムが良ければ助かっているかもしれない命があるのです。
例えば,平日の昼間と,夜間,休日を比較すると,心肺停止時の救命率に差があります。当然,平時の昼間であれば,医療機関はフルに機能していますので,救命率は高くなります。また,都市部とへき地では,都市部の方が医療機関も多数あり,その機能も充実していますから,救命率は高くなります。
 また,市中において軽症の方と重症の方が同時に発生し,それぞれ救急車で運ばれている際,軽症の方を運んでいる救急車が先に救命センターに連絡を取り,受入したばかりに,その後,重症の方の受け入れが外の一般病院に運ばれることとなり,結果的に重症の方を救命できないケースが発生しています。もし,重症の方が先に救命センターに運ばれれば救命できたかもしれません。
 命が助かるか助からないかは運次第,では困ります。救急医療のシステムを改善したり,重症の方のために,軽症であれば少し我慢するシステムを作ることで,より多くの生命を救うことができます。自分自身が生命が危機に瀕したとしても,社会が最大限の社会資源,医療資源を自分に投入してくれる社会を構築すれば,私も含めた住民,国民は感謝を持って医療システムに費用を支払い,協力してくれるのではないでしょうか。
 基本方針を達成するためにはまずは救急医療体制を整備する必要があります。まず,救命センターを整備します。複数の診療科からなる医療機関に救命センターを整備します。これらのセンターは24時間,いずれの時間帯も高度な治療な体制を構築します。医師の交代制勤務を敷くことのできるだけの医師数を確保する必要があります。地域の医師数が限られていれば,現在ある救命センターの数を減らして集約化する必要があります。
○救急搬送体制の整備
 日本においては消防機関の救急車が救急搬送の主体となっています。救命センター周辺の地域においては救急車で短時間に搬送できると思いますが,救命センターから遠い地域においてはヘリコプターを積極的に活用します。これにより住んでいる場所に関わらず,重症の際はヘリコプターを活用することにより救命センターで治療を受けることができます。
日本ではドクターヘリ及び消防防災ヘリが重症患者の搬送を行っています。命の危機に瀕した患者が救命センターの遠方で発生した場合には,常にドクターヘリ,防災ヘリが活用可能な体制を構築し,患者の近くの着陸可能地点に着陸し,即座に搬送します。問題は夜間です。現在,夜間に飛ぶことのできるドクターヘリ,防災ヘリは数が限られています。理由は日本においてはヘリコプターの運航は有視界飛行が原則であり,安全の確保ができる照明設備の付いたヘリポートが必要だからです。
そこで夜間もヘリコプターによる搬送ができるように,照明設備を有するヘリポートを全ての市町村及び救命センターに設置します。夜間に救命センターから遠い地域で重症患者が発生した場合は,救急車で患者を照明設備の整ったヘリポートまで搬送し,ヘリポートでリコプターに患者を収容し,救命センターに搬送する体制を構築します。ヘリコプターは音がうるさいことから,特に夜間運行に当たっては救命センターやヘリポート周辺の住民から苦情が来るかもしれませんが,命を救うために必要であることの理解を関係機関が求めると共に,住民から選ばれた政治家が率先して行う必要があります。
○緊急度判定制度の導入
 救急車及びヘリコプターによる搬送を行うに当たっては,その対象者を重症患者,緊急的な処置が必要な患者に絞り込みます。軽症,重症の区別なく全ての出動要請に対応していたのでは,救急車,ヘリコプターが何台,何機あっても足りませんし,費用が掛かるだけではなく,本当に使うべき人に使えなくなります。
現在,消防庁において救急搬送前に医学的な緊急度を判定するトリアージの検討が進んでいます。これによりある程度の重症患者の絞り込みが可能となり,うまくいけば救急車の搬送件数は半減する可能性があります。救急車で医療機関に運ばれてくる患者のうち,軽症の方の割合は実にその半数以上を占めています。軽症患者の中には,救急車をタクシー代わりに使う悪質な例もありますが,その大多数は自分や身内は救急車を使うほどの重症だと思い,救急車を要請していますが,医療関係者が見れば実は軽症,というケースがほとんどです。
一般市民に医学的な判断を求めるのには無理があります。そこで一般市民でも重症度の判定を容易に行える判定ツールの提供や,看護師が緊急度判定を行う電話相談の実施が東京など,一部の地域で行われています。119番指令台の司令員が通報内容を元に緊急度を判定するシステムや,救急隊員が患者と接触した際に緊急度を判定するシステムも開発が進められています。
一方で,本当は重症の患者を誤って軽症と判定し,搬送されずに重症化し,最悪の場合は死に至るケースも想定されます。しかし,誤った判定を恐れるあまり,トリアージを行わず,119番要請のあった全ての患者を救急車やヘリコプターで運ぶことにすれば,社会資源がいくらあっても足りません。リスクゼロにこだわるあまり,社会資源の有効活用を犠牲にするのではなく,万が一,判定が誤って患者に損害が生じた場合は,社会が補償するシステムを構築することで対応可能と考えます。なお,私はある政策を採用した場合に,不都合なことが起こらないリスクゼロの政策はないことを社会に説明する責任は政治家の役割だと考えています。
トリアージの制度ですが,病院内では行われているところが多数あります。医療機関に複数の救急患者が来た場合,それぞれの患者の緊急度を素早く判定し,重症度の高い患者から順番に治療を開始します。先ほど,軽症の患者を搬送してきた救急車を先に受けたばかりに重症の患者の受け入れが遅れた事例を紹介しましたが,院内トリアージが適切に行われれば,軽症の患者を病院内で待たせた上で緊急性の高い患者を受け入れて先に治療を行う,といった対応が可能となります。
また,救急車で病院に行っても歩いて病院に行っても同じトリアージ基準で緊急度を判定することで,急ぎの治療が必要な患者を先に診察を行うようにすることが重要です。これにより早く診察を受けたいがために救急車を不適切に利用することを抑制することができます。
現在,診療報酬上,二次救急医療機関に対してトリアージの点数が設定されており,全国的な普及が図られていますが,東海州においては全ての医療機関において院内トリアージが行われるようにルール化することで,緊急性の高い患者の治療を優先的に行うことを徹底することを提案したいと思います。
○一般市民の救命活動への参画
 消防庁が公表したデータによると,目の前で心肺停止が発生し,すぐに心肺蘇生を行った場合,その患者の救命率は何も行わない場合の1.2~1.6倍になっています。心肺蘇生が行われるか行われないかで人の命が左右されます。そこでまずは東海州のすべての小学校,中学校,高等学校において心肺蘇生法のトレーニングを行うこととします。また,公務員,政治家,公共交通機関の職員も原則,心肺蘇生法をマスターしてもらいます。また,希望するすべての一般市民が心肺蘇生法の講習を受けることができるように講習会を多数開催することを提案したいと思います。
 なお,心肺蘇生法のトレーニングはあくまで自発的な意思で受講してもらうことが重要です。心肺蘇生法をマスターすれば,人を助けることができます。また,自分を含めて多くの人がマスターすれば,万が一,自分や家族が心肺停止になった場合,命が助かる可能性が高くなります。究極の公助だと考えます。
またAEDが使用された場合,使用されなかった場合に比べて4.3倍助かっています。様々な場所にAEDが多数設置されることは救命率の向上につながります。公共施設においては,AEDの設置を義務付けると共に,民間を含めてAEDの購入を行う際には,購入をサポートする補助制度を導入することを提案したいと思います。
○医療関係者を守るために
 救急医療の現場においては,患者の生命を助けるために,体に害を与える可能性のある治療を積極的に行う必要があります。昨今,医療不信から民事上の医療裁判が多数発生しています。医療関係者は基本的に裁判に巻き込まれることを好みません。裁判に巻き込まれることを恐れるあまり,リスクはあるが効果が高い治療を避けることがあっては助かる命も助かりません。東海の地域においては,危機に瀕した生命を最大限助けるために,患者が希望しない限りにおいてはリスクと利益を常に天秤にかけ,必要があれば積極的な治療を医療関係者が安心して行うことのできる社会制度の整備が必要です。
 医療行為は常に不確実性がありますから,常に不幸な結果となる可能性があります。もし,不幸な結果となった場合,医療関係者に明白な過失がある場合を除いて民事上の責任を免責し,その代り,患者の状態に応じて金銭による補償を行う制度を整備することを提案します。
 この制度を導入することにより,医療関係者は安心して医学的に有益な治療を行うことができ,患者はそのメリットを享受するとともに,万が一,不幸にも合併症が発生した場合には補償されることとなります。人間の行うことにリスクゼロはあり得ません。このような制度を導入することのメリット,デメリットをきちんと地域住民に説明することが政治の役割だと考えています。
○助かる命を助ける社会の実現へ
 これまで提案してきた内容を実施すれば,この地域のすべての住民の生命を守るという基本方針の達成に近づきます。助かる命を助ける社会。社会において信頼関係を構築する最初の一歩であると考えています。住民も参画した協議会において十分な議論を行い,決めていくことになります。

前に戻る